新規入場者教育|誰の義務か・保存年数の定めはあるかを条文で
公開日: 直感日報 編集部

この記事でわかること
- 「新規入場者教育」は法令にない語で、公的な所在は「元方事業者による建設現場安全管理指針」(平成 7 年基発第 267 号の 2)であること
- 法定の教育義務は雇入れ時・作業内容変更時の教育(安衛法 59 条 1 項・2 項)で、行うのは労働者を雇い入れた各事業者(下請自身)であること
- 元請(特定元方事業者)の義務は教育への指導・援助(安衛法 30 条 1 項 4 号)と、周知のための場所・資料の提供(安衛則 642 条の 3)であること
- 59 条・35 条・642 条の 3 のいずれにも、記録の作成や保存年数の定めがないこと
- 実施報告書(全建統一様式第 7 号)が求められる出どころが、指針の「報告・把握」にあること
「新規入場者教育」という言葉を、労働安全衛生法と労働安全衛生規則のどこを探しても見つけることはできません。法律にあるのは二層の義務です。教育そのものは労働者を雇い入れた各事業者、つまり下請自身の義務であり(安衛法 59 条)、元請の義務は教育への指導・援助と、周知のための場所・資料の提供です(30 条 1 項 4 号・安衛則 642 条の 3)。これらの条文に記録・保存の定めはありません。ではなぜ現場では元請が教育の場を仕切り、実施報告書の提出を求めるのか。条文と厚生労働省の指針で順に確かめます。
新規入場者教育は法令にない言葉。義務は「雇い主の教育」と「元請の援助」の二層【早見表】
新規入場者教育を誰がやるのかで迷うのは、二層の義務が現場では一つの朝の風景に重なっているからです。教育を行う義務と、教育を援助する義務。先に条文だけを表にします。
表は横にスワイプできます(最初の列は固定表示)→
| 義務の主体 | 根拠条文 | 内容 | 記録・保存の定め |
|---|---|---|---|
| 下請(労働者を雇い入れた各事業者) | 安衛法 59 条 1 項・2 項 → 安衛則 35 条 1 項 | 雇入れ時・作業内容変更時に、業務に関する安全衛生教育を行う(8 事項) | 条文に記録・保存の定めはない |
| 元請(特定元方事業者) | 安衛法 30 条 1 項 4 号 | 関係請負人が行う教育に対する指導及び援助 | 条文に記録・保存の定めはない |
| 元請(建設業) | 安衛則 642 条の 3 | 周知を図るための場所の提供、資料の提供等(自ら周知させるときは、この限りでない) | 条文に記録・保存の定めはない |
| 元請と下請(指針レベル) | 指針(基発第 267 号の 2)9・14(8) | 元請は援助し、実施状況を報告させて把握する。下請は実施して結果を報告する | 指針にも保存年数の定めはない |
| 対照: 特別教育 | 安衛法 59 条 3 項 → 安衛則 38 条 | 危険・有害業務に就かせるときの特別の教育 | 受講者・科目等の記録を作成し三年間保存 |
表の下 2 行が混同のもとです。「三年間保存」の明文があるのは特別教育の記録だけで、新規入場者教育の法令上の正体である雇入れ時・作業内容変更時教育には、保存年数を定めた条文がありません。
新規入場者教育とは — 法令上の正体は雇入れ時・作業内容変更時教育(安衛法59条)
新規入場者教育は元請が行うもの、と思われがちですが、法定の教育義務の名宛人は元請ではありません。安衛法 59 条 1 項はこう定めています。
事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
2 項は「前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する」です。ここでいう事業者は、その労働者を雇い入れている会社(事業者)のことです。現場に新しく入った職人に行う教育の法令上の正体は、この雇入れ時・作業内容変更時の教育で、行う義務を負うのはその職人を雇っている会社、つまり各下請自身です。元請と下請のどちらが行うのか、という問いへの条文の答えがここにあります。
一方、「新規入場者教育」という語の公的な所在は法令ではなく、厚生労働省が示す「元方事業者による建設現場安全管理指針」(平成 7 年 4 月 21 日付け基発第 267 号の 2)です。指針は、元方事業者が実施することが望ましい安全管理の具体的手法を示す文書で、法令上の義務とは層が違います。
なお、59 条の名宛人は労働者を雇い入れた事業者です。労働者を使用しない一人親方の記録がどう位置づくかは、一人親方の作業記録の記事で扱っています。
義務の名宛人が分かると、次の問いは、何を教えるのか、です。
教育で何を伝えるのか — 安衛則35条の8事項と指針の8項目
教える事項は安衛則 35 条 1 項に 8 つ列挙されています。雇入れ時・作業内容変更時に、従事する業務に関する安全衛生のため必要な事項について、遅滞なく行います。
- 機械等・原材料等の危険性又は有害性と、これらの取扱い方法
- 安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能と、これらの取扱い方法
- 作業手順
- 作業開始時の点検
- 業務に関して発生するおそれのある疾病の原因と予防
- 整理、整頓及び清潔の保持
- 事故時等における応急措置と退避
- そのほか、業務に関する安全衛生のために必要な事項
同条 2 項により、これらの事項について十分な知識・技能を持つと認められる労働者には、その事項の教育を省略できます。指針 14(8) は、下請(関係請負人)が新規入場者に職長等から周知する事項として、現場固有の 8 項目を挙げています。
- 元請と下請の労働者が混在して作業を行う場所の状況
- 危険を生ずる箇所の状況(危険有害箇所と立入禁止区域)
- 混在作業場所で行われる作業相互の関係
- 避難の方法
- 指揮命令系統
- 担当する作業内容と労働災害防止対策
- 安全衛生に関する規程
- 建設現場の安全衛生管理の基本方針・目標・基本的な労働災害防止対策を定めた計画
35 条の 8 事項が業務そのものの安全なら、指針の 8 項目はその現場固有の事情です。かける時間や進め方についての法令上の定めはありません。
下請側の義務が見えました。では建設現場の元請は、この教育に何をするのでしょうか。
元請(特定元方事業者)の義務は何か — 30条1項4号の「指導及び援助」
元請の法定の義務は、教育の実施ではなく「指導及び援助」です。安衛法 30 条 1 項が特定元方事業者に求める措置は 6 つあり、その 4 号がこう定めます。
関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助を行うこと。
教育を行うのは関係請負人で、元請はそれに対して指導・援助を行う、という構図です。同じ 30 条 1 項の 3 号が定める巡視は安全パトロールのチェックリストの記事で扱いました。巡視と教育への援助は、混在作業の災害を防ぐために元請が講じる措置として、同じ条文に号違いで並んでいます。
では建設現場では、この「援助」は具体的に何をすることなのでしょうか。
建設業だけの決まり — 場所と資料の提供(安衛則642条の3)と「自ら周知」のただし書き
建設業の元請に限って、援助の中身を具体化した条文があります。安衛則 642 条の 3 は、建設業に属する事業を行う特定元方事業者に対し、その場所で新たに作業に従事することとなった作業従事者への周知を関係請負人が図れるよう、次の措置を求めています。
当該周知を図るための場所の提供、当該周知を図るために使用する資料の提供等の措置を講じなければならない。ただし、当該特定元方事業者が、自ら当該関係請負人に係る作業従事者に当該場所の状況、作業相互の関係等を周知させるときは、この限りでない。
周知する内容は、その場所の状況(危険を生ずるおそれのある箇所を含む)と、そこで行われる作業相互の関係等です。教育のための詰所を用意する、現場の危険箇所図や現場ルールの資料を渡す、といった実務はこの条文の上にあります。
注目したいのがただし書きです。元請が朝礼後に新規入場者を集めて自ら現場の状況を説明する運用は、この「自ら周知させるとき」に当たり、その場合に外れるのは場所・資料の提供義務です。59 条の教育義務は別の条文としてそのまま残ります。35 条 2 項の「省略」は知識・技能の要件によるもので、これとも別の話です。
二層の義務が出そろいました。では、行った教育の記録はどうでしょうか。
記録・保存は義務なのか — 59条・35条・642条の3に保存の定めはない
安衛法 59 条、安衛則 35 条、642 条の 3 のいずれにも、記録の作成や保存を命じる文言はありません。労働安全衛生規則を根拠に 5 年保存が義務、と説明されることがありますが、雇入れ時等の教育を定めた 35 条に記録・保存の定めはなく、保存年数の明文がある 38 条はこう書かれています。
事業者は、特別教育を行なつたときは、当該特別教育の受講者、科目等の記録を作成して、これを三年間保存しておかなければならない。
三年間保存の対象は特別教育の記録です。特別教育は、危険・有害な業務に就かせるときの教育(59 条 3 項)で、雇入れ時・作業内容変更時の教育とは項が分かれています。足場やつり足場の点検で記録の要るものと要らないものが同じ条文に並んでいたのと同じで(足場の点検表の記事)、教育でも、記録の定めの有無は条文ごとに分かれています。
なお、これは本記事で実読した安衛法・安衛則の範囲の話です。何年残すかは社内規程や元請の書類ルールで決めることになり、日報側の保存年限の考え方は作業日報の保存期間の記事に整理しています。
保存の定めがないのに、なぜ現場では実施報告書の提出が求められるのか。出どころは条文ではなく、指針にあります。なお、その日の新規入場と教育の実施を日付つきで残す形から先に整えたい場合は、14 日間無料で試せる、スマホから 15 秒で出せる日報を使う手もあります(クレジットカード不要)。
実施報告書(全建統一様式第7号)はなぜ求められるのか — 指針の「報告・把握」
実施報告書の公的な出どころは、指針 9 の「報告・把握」です。指針はこう書いています。
元方事業者は、関係請負人に対し、その労働者のうち、新たに作業を行うこととなった者に対する新規入場者教育の適切な実施に必要な場所、資料の提供等の援助を行うとともに、当該教育の実施状況について報告させ、これを把握しておくこと。
(出典: 厚生労働省「元方事業者による建設現場安全管理指針」平成 7 年 4 月 21 日付け基発第 267 号の 2・2026-08-26 確認)
下請側の実施事項を定めた指針 14(8) も、周知するとともに「元方事業者にその結果を報告すること」としています。さらに指針は、元請が関係請負人の安全管理状況を評価する際に留意する事項の一つとして、新規入場者教育の実施状況(又は元請が実施する安全衛生教育への参加状況)を挙げています。下請が実施を報告し、元請が把握する。この往復を様式にしたのが、現場で使われている新規入場時等教育実施報告書(全建統一様式第 7 号)です。59 条にも 642 条の 3 にも様式の定めはないので、法令様式ではなく、様式そのものは業界団体や元請の配布物から入手する現場運用の書類です。
報告書は入場のあった日の事実から書き起こす書類ですが、元請側の「把握」に終わりはありません。把握は、現場が動いている限り続きます。
その日の新規入場と教育の実施を日報に残す
なお、弊社が提供する直感日報は、日報の記録・数値集計・CSV エクスポートを行うツールであり、新規入場者教育そのものを実施したり、教育の内容や教材・様式を提供したりすることはできません。教育の実施は労働者を雇い入れた各事業者、援助と実施状況の把握は元請の責任です。新規入場時等教育実施報告書(全建統一様式第 7 号)を自動で作成・提出する機能や、法令要件への適合を判定する機能もありません。また、入退場管理・勤怠管理・打刻・賃金計算の機能もありません(記録するのは「今日誰が新規入場し、誰が教育を実施したか」という出来事であって、出退勤や作業時間ではありません)。直感日報が担うのは、その日の新規入場と教育実施の事実・実施者・対象者を日付つきで毎日残すところまでです。
日報の記入項目を 3 つ持たせると、指針の「報告・把握」の往復に日付つきの元データが揃います。
- 今日、誰が新規入場したか(氏名と所属会社)
- 教育を実施したか(実施の有無と実施者)
- 何を周知したか(説明した項目の要点)
下請の側では、実施報告書を書くときに日付と実施者を遡って確かめる照合原本になります。元請の側では、指針が求める実施状況の把握がその日のうちに記録として残ります。日報の項目の設計は現場日報の書き方の記事にまとめてあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 新規入場者教育は法律で義務ですか?
「新規入場者教育」という語は法令にありません。法定の義務は雇入れ時・作業内容変更時の教育(安衛法 59 条 1 項・2 項)で、現場に新しく入った労働者への教育の法令上の正体はこれに当たります。「新規入場者教育」の呼び名の公的な所在は指針(基発第 267 号の 2)です。
Q2. 誰が行うのですか?元請と下請のどちらですか?
教育を行う義務は、その労働者を雇い入れた各事業者、つまり下請自身にあります(安衛法 59 条)。元請の義務は教育への指導・援助(30 条 1 項 4 号)と、周知のための場所・資料の提供(安衛則 642 条の 3)です。
Q3. 何を教えるのですか?
安衛則 35 条 1 項の 8 事項(作業手順・作業開始時の点検など)が法定の内容です。指針 14(8) は、現場固有の 8 項目(混在場所の状況・危険箇所・指揮命令系統など)を職長等から周知するとしています。
Q4. 時間の決まりはありますか?
ありません。かける時間・場所・進め方についての法令上の定めはなく、内容の事項だけが決まっています。
Q5. 記録は何年保存するのですか?
安衛法 59 条・安衛則 35 条・642 条の 3 のいずれにも、記録の作成や保存年数の定めはありません。「三年間保存」の明文は特別教育の記録(38 条)で、雇入れ時等の教育とは別です。社内規程や元請の書類ルールで年数を決めている場合は、それに従います。
Q6. 新規入場者のアンケート用紙は法令の様式ですか?
法令にアンケートの定めはありません。実施報告書(全建統一様式第 7 号)とあわせて現場で使われている運用上の書類で、様式は業界団体や元請の配布物から入手します。
Q7. 送り出し教育とは何が違うのですか?
送り出し教育も法令にない語で、入場する側の会社が現場に送り出す前に行う教育の呼び名として使われています。本記事の新規入場者教育は、現場に入った時の教育の呼び名です。
まとめ: 教育は「雇い主」、援助は「元請」、保存年数の定めはない
- 「新規入場者教育」は法令にない語。公的な所在は指針(平成 7 年基発第 267 号の 2)
- 法令上の正体は雇入れ時・作業内容変更時の教育で、行う義務は労働者を雇い入れた各事業者 = 下請自身にある(安衛法 59 条 1 項・2 項)
- 教える事項は安衛則 35 条 1 項の 8 事項。十分な知識・技能があれば省略できる(同条 2 項)
- 元請の義務は教育への指導・援助(30 条 1 項 4 号)と、周知のための場所・資料の提供(安衛則 642 条の 3)。自ら周知させるときは提供義務が外れる
- 59 条・35 条・642 条の 3 に記録・保存の定めはない。「三年間保存」は特別教育の記録(38 条)
- 実施報告書(全建統一様式第 7 号)は法令様式ではなく、指針 9 の「報告させ、把握しておくこと」を様式にした現場運用の書類
まずは、自社の立場が二層のどちらかを確かめてください。下請の立場なら、雇い入れた職人への教育を誰がいつ行ったかが日付で追える形になっているか。元請の立場なら、各社の実施状況の報告がその日のうちに把握できる形になっているか。残す 3 点(入場者・実施の有無・実施者)を先に決めれば足ります。
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※ 本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、法令・安全衛生に関する助言ではありません。教育の実施は労働者を雇い入れた各事業者、援助と実施状況の把握は元請の責任であり、現場の規模や工種によって必要な体制は変わります。実際の運用にあたっては関係法令の最新版と元方事業者の定める安全衛生管理のルールを優先し、教育・記録の取扱いに関する個別の適用の疑義は所轄の労働基準監督署や専門家にご確認ください。